卒業生インタビュー①(校長ブログ71)
各方面で活躍中の開智卒業生の近況を、不定期にご紹介していきたいと思います。2011年に卒業した、9期生の豊田良順君が学校に来てくれたので、現在に至るまでの足取りや、在校時のことなどを語ってもらいました。
~~開智入学まで~~
栃木県に住んでいましたが、6年生の時に、「化学をもっと勉強したい」という願望を抱き、中学受験を思い立ちました。スタートが遅く塾にも行かなかったので、ギリギリな状況でしたが、何とか開智に合格しました。
~~開智生時代~~
探究が好きでした。最初は、燃料電池について探究していましたが、途中から「シャープペンの芯からどうやったらダイヤモンドを作れるか」というテーマに変えて、ずっとそのテーマを続けました。学校生活では、気の合う友達とおしゃべりしたり、勉強したり、和気藹々と過ごした記憶があります。授業や放課後特別講座のレベルが高かったので、結局、小中高と塾には一度も行かずに大学に行くことができました。
~~大学では~~
高校時代、化学が大好きだったので、大学でも化学を学ぼうと思って、東京大学理科Ⅰ類に進学しました。3年から理学部化学科に進み、錯体化学を専門に研究しました。学部4年生の時に、3つ書いた論文の内容と、取得単位の成績から、東京大学総長賞(筆者注:年度ごとに、学部生全体から文系1名、理系1名が選出される)をいただきました。先生方に恵まれたと思っています。
~~大学院時代~~
東京大学大学院修士課程2年、博士課程3年と、一貫して錯体化学を研究しました。博士1年の時、「第67回リンダウ・ノーベル賞受賞者会議」(筆者注;若手研究者の育成を目的として、ノーベル賞受賞者の講演およびディスカッションを、ドイツのリンダウにて行うもの。第67回はノーベル化学賞の受賞者が集められた。日本学術振興会の推薦によって派遣される)に参加することができました。ノーベル賞受賞者や世界各国から来た若手研究者との交流の結果、研究へのモチベーションがさらに上がりました。博士論文のテーマは、「低次元配位ナノマテリアルにおける非均一性」です。
~~ポスドク時代~~
リンダウ会議で知り合った、Bernard L.Feringa先生の教えを乞うべく、オランダのフローニンゲン大学に留学しました。若いうちに海外に出てみたいという気持ちも、留学を後押ししました。幸か不幸か、コロナ禍のために観光もろくにできず、研究室にこもりっぱなしでしたが、引き続き、錯体化学に関して多くのことを学ぶことができました。
~~現在、そしてこれから~~
4月から大学院時代にお世話になった先生の紹介で、東北大学の助教となりました。研究に加えて教育にも携わることになります。仙台という町はとても住みやすい町であることもあって、新しい挑戦にワクワクしています。将来的には、錯体化学の知見を応用して、ソーラー発電やナノマシン(筆者注:0.1 – 100 nmサイズの機械装置)の開発に関わることが望みです。おもしろい研究をしたい、そしてそれが世のため人のためになることをめざしたい、と思っています。
~~研究をしていて、思うこと~~
研究がうまくいかない時、実験が失敗した時がチャンスだと思っています。予想外の結果になった時こそ、新しい見方、発想のチャンスです。他の方の論文や書物を読んだりしていると新しい気づきを得ることも多いですし、あれっ?と思ったことを粘り強くずっと考えていると、1~2ヶ月たったころに、突然ひらめきが得られ、「おもしろい!」と思うことがあります。視界がぱっと開ける感じはとても気分のいいものです。研究に不可欠な論理的な思考力は、開智の時の探究や数学の授業の時間に鍛えられた気がします。鍛錬してくださった先生方には感謝しています。大学受験のために必要なことも教わりましたが、そのような研究者として必要な基礎的な力も身につけることができたと思っています。日本は欧米と比べて、博士人材の育成がうまくいっていないと感じることもありますが、化学の分野は、日本に優位性がまだまだあると思うので、これからも研究に鋭意取り組んでいきたいと考えています。
対話の中で、何度も「おもしろい」という言葉が出てきたことに、大変興味を持ちました。やはり、「おもしろい」と思うことのパワーは計り知れません。自分の専門分野を通して社会貢献する、という開智の教育理念をそのまま体現していて、とてもたのもしく感じました。今後の活躍を心より応援したいと思います。