学校ブログ

卒業生インタビュー⑦(校長ブログ142)

 16期生の山内陽(やまうちみなみ)さんが学校を訪ねてくれました。山内さんは5年生の時にUWCアルメニア校に転学し、アメリカのルイス&クラーク大学を経て、この9月からスタンフォード教育大学院に進学します。GBコースの生徒達に話をしてくれた後、これまでのこと、これからのことについて、私も話を聞いてみました。

 

【これまでの道のり概要】

UWCの試験をパスして、5年生の1学期で開智を退学し、アルメニアのUnited World College Dilijanで2年間、国際バカロレアのディプロマプログラム(DP)を履修。その後、アメリカのルイス&クラーク大学に進学。在学中に、アフリカのウガンダへのインターン、スペインのグラナダ大学への交換留学を経験。卒業後、1年間の準備期間を経て、今年の9月からスタンフォード教育大学院の修士課程で学ぶことが決まっている。専攻は、国際教育政策の分析。

 

【UWCとは】

UWC(ユナイテッド・ワールド・カレッジ、本部:ロンドン)は、世界各国から選抜された高校生を受け入れ、教育を通じて国際感覚豊かな人材を養成することを目的とする国際的な民間教育機関です。現在までに、イギリス、カナダ、シンガポール、イタリア、アメリカ、香港、ノルウェー、インド、オランダ等にカレッジ(高校)が開校されています(UWC日本協会のHPより)。

 

~~そもそもUWCを受けた理由は?~~

開智の探究テーマでは、いろんなことを題材にしましたが、3年生以降は、言語学関係をテーマにしました。第一言語と第二言語の習得というテーマで探究したことで、言語の習得ということへの興味が深まり、実際に言語を新たに習得してみようという意欲が湧いてきました。大学に入ってから交換留学で海外の大学へ、ということも考えましたが、友達がUWCを受けることを知り、ならば自分も、と思って応募しました。

 

~~アルメニアでの体験談を教えてください~~

開智では英語はそこそこできる方でしたし、プレゼンスキルにも結構自信があったので、何とかやれるだろうと思ってアルメニアに行ったのですが、入学してすぐにその自信はこなごなに砕け散ってしまいました。UWC校には世界83カ国から200人の高校生が集まるのですが、そこで話される会話やディスカッションにまったくついて行けなかったのです。最初のうちはプライドが邪魔をしてわかったふりをしていたのですが、それもすぐに行き詰まり、希望して入った英語の一番上のクラスも、レベルの差による成績不振を見かねた事務局により、強制的に一番下のクラスに移動させられてしまいました。自分のアイデンティティが完全に崩壊し、かなり悩みました。しかし、一番上の英語クラスで最難関レベルの英語に揉まれてこそどん底の英語力を本質的に鍛え上げられるであろうという信念、一番上の英語クラスの履修により可能となるスペイン語の履修を何としてでも続けたいという希望を初志貫徹することに決め、先生に必死で交渉し、背水の陣で一番上のクラスを続けることにしました。皆の英語についていくために、考えられる様々な方法に挑戦しました。一番効果的だったと思うのは、同級生との会話の中で知らない単語が出てきたら、そのたびに会話を止めて、今の単語は何?意味は?スペルは?と聞きまくり、その日ノートに記録したその全てのフレーズを夜に自分で調べ、完全にしらみ潰しにしてから翌日に臨む、ということです。相当うっとうしがられましたし、こちらのメンタルにもかなり負担が来ましたが、次第に、「そういう奴だ」と認知されて受け入れられるようになり、それにつれて、同級生達の会話も理解できるようになっていきました。テキストで使われるような単語と、日常的に用いられる会話での単語との間には溝があり、それを埋めないと、いつまでたっても会話が理解できないということがわかりました。次第に一番上のクラスでも好成績を取るようになり、無事IBの資格も得ることができました。

 

~~アメリカのルイス&クラーク大学に進んだ理由は?~~

アルメニアでの挫折の時に、どうして他の国から来た人たちは英語ができて、自分はできないのだろうと思い、同級生に徹底的にそれまでの英語学習歴を聞きまくりました。次第に教育ということに興味を持つようになりました。自分なりに、「教育とは、未来の理想的社会の実現のための人材資本への投資」と定義しましたが、めざすべき理想的な社会のあり方というのは、国によって異なるものです。そこで、大学ではまず社会について学ぼうと思いました。正直、アメリカはあまり好きな国ではないのですが、幅広くリベラルアーツを学びたいことや奨学金が出ることから、ルイス&クラーク大学に進むことにしました。専攻は、社会学および人類学です。

 

~~大学時代の経験談をお願いします~~

社会について、教育について、幅広く学びました。学ぶだけでなく、大学内外の課外活動、ボランティア、アルバイトなどいろんな活動もしました。2年次に、一般財団法人あしなが育英会のあしながウガンダ心塾にて、あしながアフリカ遺児高等教育支援 100 年構想インターンに2 ヶ月従事し、サブサハラアフリカ全土から選抜された遺児達が参加する海外大学受験勉強合宿にて指導しました。4年次には、交換留学制度を活用してスペインのグラナダ大学に1学期間行き、現地の K-12 School(幼小中高一貫校)にて、9〜12 年生担当の英語科アシスタント教員・比較教育学研究インターンを兼任しました。様々な経験から視野を広げることができたと思います。

 

~~今後の方向性について~~

スタンフォード教育大学院を修了したら、OPT(Optional Practical Training)制度を利用して1年間アメリカで働く予定です。その後の展望としては、ヨーロッパに拠点を移しヨーロッパの教育の理解を深めてみたいと思っています。いずれは日本に戻り、日本の教育を変える仕事につきたいと考えています。新たな出会いによって、その方向性は変わるかもしれませんが。

 

~~いろんな国の人と協働するのに必要なことは何ですか?~~

月並みかも知れませんが、ビジョンを明らかにすること、ビジョン実現のための道のりを具体化して提示すること、が大事だと思います。ただ、国によって国民性というものが非常に多様なので、相手の国民性に合わせて、ビジョンや道のりの示し方を工夫することも、とても重要です。

 

~~人生の中でいろんなことを選択していく上で重要視していることは?~~

Appleのスティーブ・ジョブズを尊敬していますが、彼の言葉に、「Connecting the dots. ~点と点をつなぐ」というものがあります。人生における選択をする際に将来を見据えて点と点を繋ぐことは不可能であり、後になって振り返った時にしか繋ぎようがない、というフレーズです。どの選択肢が将来役に立ちそうか、どの選択肢の方が無難に未来につながっていきそうか、といった打算ではなく、どれほど難しいことでも人生の主軸につながる未来が想像できなくても、心から挑戦したいと感じたことを信じ、それらに全力投球すること。そうすると、散らばって見えていたPassionの点たちが着実に唯一無二の強みとして人生の軌跡の中でつながってくるということが、後から振り返った時にのみわかります。だから、おもしろそうだと思ったことには、必ず後悔のないよう全力で取り組むことにしています。スペイン語、コーヒー、ワイン、料理、ボルダリング、作曲、などなど。いろんなことにチャレンジしています。



~~開智生時代を振り返って~~

中学受験で第一志望校に入れず、ブルーな気持ちで入学しましたが、周りの同級生に刺激を受けて、いろんなことに挑戦するようになりました。剣道部、フィールドワークの実行委員、体育祭の応援団など、多くの活動に参加しました。仲間とあれこれ相談しながら何かを企画運営していくことにとても関心を持っていました。また、自分たちの代から始まった哲学対話にもとても興味を持ち、哲学対話の有志団体「ありとぷら」の立ち上げにも関わりました。

 

~~開智生へひとこと~~

現在世界の様々な場所で色々な事に取り組んできている私ですが、在学中は皆さんと何一つ変わらず毎日岩槻の通学路を歩く開智生でした。ただ、一つだけお伝えしたいことは、海外で今奮闘するその原動力や価値観の根幹となるものの多くは、実は開智で得たと言っても過言ではないです。私の場合は、「海外へ出る原動力」を探究テーマから導き出し、海外で戦うために必須となる討論能力や批判的思考力のベースとなる「物事の本質を問う習慣」を哲学対話から得ました。開智という場所は、振り返ってみると様々な機会や可能性に溢れていたと思います。(“Connecting the dots”、ですね)

今現在開智に通い7年前までの私のように毎日岩槻の通学路を歩く皆さんの多くには、その「様々な機会や可能性」が自分の身の回りの一体何を指すものなのか、はっきりとは見えていないと思います。将来を見据えて確実に点を繋ぐことは不可能だからです。だからこそ、その答え合わせは未来に任せて、今は自分の目の前にあるPassionに「真摯に」向き合い、「本気で」取り組んでみてください。世界を変えるような大層なPassionである必要はありません。ただ、誰に何を言われようとも、周りが認めざるを得なくなるまでそれを貫いてみてください。その結果の答え合わせはいずれ必ずやってきます。

一卒業生に過ぎない私の「開智という場所は、振り返ってみると様々な機会や可能性に溢れていた」という自身の経験に基づいた言葉が、多少なりとも今日の皆さんの選択や決断の背中を押すものとなれば、と願っています。

ウガンダで教え子と。
開智の体操着入れとナイル川。
大学の卒業式で友人と。
インタビューありがとうございました。

~~インタビューを終えて~~

エネルギッシュな雰囲気に圧倒されました。それなりの自信を持ってアルメニアに向かったものの、大きな挫折を経験し、それまでの自分を捨てて新たな自分を作り直そうとしたことには、とても感動しました。一つの目標を立ててその実現に役立つことを選んで取り組むのではなく、おもしろそうだと思ったことに全力投球し、その経験が、後から振り返ってみれば他のいろんなこととつながっている、という話にも、とても共感を覚えました。それまでの価値観をぶち壊し、新しい価値観を身につけていく、かと言って、悲愴感はなく、おもしろそうにチャレンジしていくその姿は、今回話を聞いた生徒にも強烈なインパクトを与えてくれたと思います。さらに一回り大きくなって帰ってくる日を楽しみにしています。